きようなできごと

記憶力が足りない

だれも助けてはくれない

「あれ、お酒飲んでないの?」

「そうなんですよね、飲めないんで」

「車できてるとか?」

「いえ、体質です」

「そうなんだ」

「やはり、帰ったほうがいいですか?」

「え、いや大丈夫だけど」

「ああ、ですよねよかったー」

「前の職場でなにか言われたりしたの?」

「そうなんです、でもねしめたんで」

「しめる?」

「全員、強制的に飲めとかいってくるやつは」

「ええ」

「帰り道に手足しばって、二度と二度と

酒を飲むのを強要しないっていう念書かかせて」

「ああ、うん」

「ひとりづつ、黙らせてきたんで」

「うん」

「社長は、そんな事言いませんよね?」

「う、うんうん」

「言うのか、言わないのか、はっきり答える」

「言わない」

「はは、だからこの会社に決めたんすよー」

開始2分、夜は長い

 

 

 

愛は永遠

あなたは、いまもあの頃のままね

 

近所の奥様たちは

自分のだんなが老いていくのを

誰もがなげいている

もちろん、自分をたなにあげて

 

でもね

あなたは、あの頃のままね

 

わたしはやっぱり

間違ってなかったと思う

わたしの決断は正しかった

 

でもね

時々は思うの

あなたとわたし

どちらもしわくちゃになっても

きっといい夫婦だったんじゃないか?ってね

でもね

そんなことはなかったのね

あなたは、あの頃のまま

いまも美しいは

 

そう

最後にいった旅行でとった写真

ずっと、そのまま

あなたはあの頃のまま

 

わたしだけがしわくちゃ

あなたに見られたくなかったから

よかったのかもね

 

あなたは

本当にあの頃のまま

 

旅行の最後

夕暮れの崖の上で

わたしがあなたを蹴り飛ばしたあの崖

あなたはあの頃のまま

わたしの心と写真のなかで

いまもあの頃のまま、美しい

 

でもね

わかってるの

いまも、ふたり一緒

 

毎晩

あなたはわたしの部屋の窓をたたく

 

わたしがあの部屋を出ても

あなたはやってくる

でもね

わたしは窓をあけない

カーテンもあけない

 

何度も何度も何度も何度も

ひっこしても

あなたはやってくる

 

わたしはあきらめた

だから

わたしとあなたはいつも一緒

あの頃のままよ

 

窓の外のあなたが

崖の下でぐちゃぐちゃになった

あの頃のまま

 

本当に美しいわ

 

 

潮のかおりは借金に似た

部屋に帰った時
少しだけいつもより
薄暗い気がしたが
まあ、そんな日もあるか
と思いながら
あかりのスイッチに
手をのばすと
その手首をなにものかに
つかまれ
そのまま、床に顔を
押し付けられるかたちで
押さえつけられた
そしてくちのあたりに
布を当てられて
気を失った

 

目を覚ますと
アイマスクをされて
手を後出に拘束されていた
ヘッドフォンからは
爆音でロックがなっていた
どうやら
両隣に誰かいて
車にのせられているようだった
声を出そうにも
縄をかまされていて出せない
体を動かすと
なにかとがったものを
腹のあたりに当てられ
こちらが動きを止めると
とがったものはひっこんだ
かなり飛ばしてるようで
どこにむかっているかは
わからなかった

 

車が止まると
ドアが開く衝撃
ヘッドフォンの片方をはずされ
「出ろ」とだけ言われる
聞いたおぼえはない声だった
自分ではうまく動けず
となりのやつが
こちらをかかえるようにして
車の外に出された
風が冷たかった
そして、潮のにおい
海だ海が近い
やっぱりそうか
俺は海に沈められるのだ

 

借金は
もう200万までふくれていた
よく厳しい取り立てが来る
なんて聞いていたが
一向にあらわれない
たかをくくっていた
でも、いきなり
こんなことってあるのか?
でも、実際いま起きている

 

俺は強引に引っ張られ
なにかに乗せられた
雰囲気から船だとわかった
やはり、このまま沖に出るのだ
暴れてやりたかったが
より強くわきをかためられ
うまく動けない
あまりに手慣れている
経験をつんだ組織なのか

 

俺はどうやら
船の甲板にしばりつけられる形で
船は動き出した
時々、海水が顔にかかる
やはり、船も飛ばしている
ああ、このまま沈められるのか
考えろ、考えろ、考えろ

 

無理だ
もう、どうしようもない
あまりのことにぼんやりしてきた
楽しかったことでも考えようか
この船が
波のタイミングで
時々、つきあげるようにはねる
それが思考をさまたげる
なんとうまくできているのか
ずっと、ガタガタしてはいないのだが
変なタイミングで船がはねる
もう本当にだめだ

 


それにしても
どこまで行くのか
時々、はねるリズムで
かなりの速さで海面をすべるように進む
いくらなんでも遠くに来ている
そこでようやく気がついた
船の甲板に
しばりつけられていたのだが
絶妙な揺れにより
体が自由になり
俺は甲板で立ち上がった
そして、アイマスクを取る
そこは、ちいさなプレハブだった

 

俺は
なんというか
ゲームセンターにありそうな
車のゲームとかの
ハンドル操作で筐体が揺れるあれ
あれの試作段階みたいな装置に
腰のあたりをしばりつけられていた
これが
ゆれて「船に乗っている」感じを
演出していたのだ、演出?
そして、なにか液体の入ったスプレー容器は
ひもがつけられていて
時々、プレハブ小屋のなかを
霧吹いていた
ボトルのなかを確認すると
どうも海水そのもののようだった
なんだこれ

 

というか
俺は
自分の部屋からさらわれて
ここに運ばれて
船に乗ったことになって
そのまま放置されたのだった
いやでも待てよ
このプレハブはどこにあるのか
まさか、ここが
とんでもない土地に
ドアはかんたんに開き
そこは、巨大な空き地にある
プレハブだった

 

そこは
地元の海の近く
大きな工場があった跡地の空き地
そこに建てられたプレハブだった
時間は、夕方
俺は混乱したまま自宅へ帰った


この出来事以来
特に変わったことはない
借金も普通に督促がきて
怖かったので普通に払った
結局あれはなんだったのか
いまだわからない
関係があるかはわからないが
借金のため応募したアルバイトが
あったのだが
そのお知らせがまったくこない
まさか、あの謎の装置と
関係があるのか
ないかも、わからなかった


俺は海のにおいが苦手になった

 

 

競馬場はなかった

「はい、今年は2020年ですよ」

「ケイバジョウ?それはなんですか?」

「馬が?競争する?それをここでやってる?」

「いやあ、そんなの聞いたことないです」

「ええ、2020年ですよ」

「ギャンブル?それなんですか?」

「ええ?そんなことしていいんですかね?」

「だから、2020年!」

「いやあ、そんなもの存在しませんよ、ええ」

 

 

 

「もしもし、私です」

「ええ、A地点で話しました」

「ちゃんと、競馬場などない話しました」

「ところで」

「あの人、ふしぎな車に乗って、ええ」

「ふしぎなかっこうをしていて」

「あの人、いったいなんなんですか?」

「あ、いえ、私はアルバイト料が出ればいいんで」

「それじゃ、失礼します」

 

 

 

「あ、今年は2020年ですよ」

 

 

日常

また、風が吹いた

きょうがいつなのか

それはわからない

 

俺は

寝床を飛び出し

外に出る

 

おもむろに

木を切る

それは、白樺

 

トントントン

トントントン

俺はこのリズム好き

 

そして

羊の毛を刈る

羊は俺をじっと見つめる

 

やっぱり

木を切る

まだ足りない

 

トントントン

トントントン

本当にこのリズム好き

 

そして

羊の毛を刈る

牛は俺を見ている

 

白樺のなえを拾う

俺はこれが嫌い

 

そして

木を切る

石の斧こわれる

 

そして

羊の毛を刈る

はさみもこわれる

 

焼いた豚肉を食う

うまい

 

もう日暮れ

夜まで釣り

 

釣果は木のうつわ

 

日が暮れる

きょうも素敵な日だったよ

兄さん

 

眠る

羊が俺をまたぐ

 

また、風が吹いた

きょうがいつなのか

それはわからない

 

 

 

となりの部屋のヤツがとにかくうるさい


俺はいらだっていた
となりの部屋の住人が
とにかくうるさい

 

現代には
めずらしくも
ひっこしのあいさつに
やってきた時
はじめて会ったが
やせ型のおとなしそうな男
だったのに

 

夜になると
部屋の中で暴れだすようで
長く続くことはないが
うるさいことはうるさい

 

うちは
アパートの二階
三部屋あるうちのまんなか


だから
時々は
ヤツの部屋側の壁を
おおきな音を鳴らして
たたいてやった

 

すると
しばらくはおさまる

少し時間をあけて
また暴れだす
俺はついに
壁をたたきながら
「うるせえぞ」
とどなるようになった

 

大家さんに
相談をしてみると
ヤツはすぐに出ていく
一時的なものだから
と言って
それ以上は話をしない

 


ある日の夜
またいつもの如く
ヤツは暴れだした
だが
きょうは様子が違う
なんというか
いつもより人数が多い
そんな気がする
それにすぐに静かになり
また
外へ出ていく音がした

 

俺は
自分の部屋を少しあけて
ヤツの部屋の玄関あたりをみた

ドアが開け放してある

俺は
すぐにヤツの部屋の様子を
確認に行った

 

部屋は
あらされており
ところどころ
血しぶきが飛び散っていた
一体、なにがおこったのだろう

 

複数人いて
部屋にヤツはいない
ということは
連れ去られたのではないか?

 

急いで警察に
とも思ったが
俺は自分の痕跡を
残さないように
そっと自分の部屋にもどった

 

そして
「やったぞ、これで静寂が」
俺は自分の部屋でさけんだ

 

その時
玄関から物音がした
そうだ
となりのヤツがいなくなった
あまりの喜びに
玄関をしめていなかった

 

そこには
男が立っていた

「あ、どうもこんばんわ」
俺はあいさつをした
こいつは
ヤツと反対側のとなりの住人だ

 

彼は
長い包丁をにぎっていた
「おまえ、いつもいつもうるさいんだよ」
俺は
その包丁で何度も何度も
刺された

 

部屋は
とても静かになった

 

 

ストーカーが見てる


最初は
手紙だったという

 

「なんか変な手紙きちゃって」
美容師のエムさんは
同僚に手紙をみせた
そこには

 

「はじめてみたときから
君のことが」

 

という文章ではじまる
熱烈なラブレターだった

 

「え、これラブレターじゃん」
「へえ、誰からなの?」
まわりは歓喜の声をあげたが
エムさんはしずんでいた
「あの、この前きたお客さんの」

 

その方は
前の週にきたお客様で
エムさんは
先輩美容師のアシスタントとして
ついていたお客様、ワイさんだった

 

先輩美容師が
髪を切って洗髪したあと
エムさんはドライヤーをかけていた

 

その時
鏡越しにワイさんが
エムさんのことを見ているのを
エムさん自身もわかっていた

 

「でも、あんまりタイプじゃないから」
エムさんはそう言うと
作業にもどっていった
思えばこれが、はじまりだった

 

手紙が届いた
次の週
その美容室に
荷物が届いた

 

それは、エムさん宛てで
送り主は、あのワイさんだった

 

そのおおきな箱は
おおきいわりに、軽かった

 

開店前の準備中に
届いたそれを
エムさんとともに
従業員がまわりをかこみ
開けることに

 

なかみは
バラの花束だった
手紙もそえてある

 

以前の手紙の件を知らない者は
「素敵な贈り物じゃないか!」
と声をあげた
知っている者は
エムさんの様子を見守る

 

エムさんは
ふるえながら泣きながら
裏に行ってしまった

 

その時
この贈り物は
以前きたお客様からのもので
という事が説明され
エムさんとして
あまり、受け取りたくはない
ものであることを
従業員全員が知ることになった

 

さらに
次の週
開店準備中の美容室で
エムさんは
とんでもない姿であらわれた
それは
白いクリームまみれで
さらに紫色の液体をかけられた状態の
エムさんだった

 

エムさんが言うには
先日、バラの花束の贈り物をした
ワイさんが
通勤中のエムさんの前にあらわれ
なぜだか
片手には、ワイングラス
もう片方には
小ぶりのウェディングケーキをかかえ
待っていた
なんというか
ワイさんの中では
もう、結婚式をあげる
ということになっているらしい

 

それを
エムさんが通るであろう道端で
テーブルにはエムさんのグラスも
用意され
さながら
ふたりだけのウェディングパーティー

 

かなり混乱したエムさんは
ワイさんを振り切ろうと
テーブルをよけて
歩きだすと
そこに歩道ぎりぎりに
車がうしろからきて
エムさんは
それをよけた

 

テーブルはひっくり返り
ワイさんは倒れ
エムさんは
頭から赤ワインと
ケーキをかぶることになった
ということだった

 

「もう、怖いよ」
ふるえながら泣いているエムさん
さすがに今回は
ということで
店長から警察に連絡
ただ
「周辺の警備を強化する」
ということに

 

気になるのは
最初以来
ワイさんは
店にはあらわれない
ということだった
エムさんに会うのを
妨害されるのを警戒しているのか

 

そんな中
ついにワイさんがあらわれた
その日は
強い雨が降っていた

 

開店準備していた店内に
店の外から
「エムちゃーん、エムちゃーん」
という声が聞こえた
すでに
出勤していた美容師たちが
外に出ると
なぜだか
アロハシャツをきた
あとスーツケースをひいた者が
雨の中外で叫んでいる
「エムちゃーん、ハワイ行くよー」
周辺の住民も外に出て
その様子を見ている
美容師たちは
それを呆然をながめた

 


「なにそれ、すーげーじゃん」
「ものすごいストーカーだね」
「結婚式のあとは、新婚旅行か」
この話を
聞かされた面々は
それぞれ感想をもらす

 

「でもさ、あらわれたなら捕まるだろ?」
「そうだよなあ」
「違う」
話し手のエヌ彦は
まわりを制した
「違うんだ」

 

その
アロハシャツ姿の者は
エムさんでした
そもそも
ワイさんは手紙など
バラの花束など
送っていなかったのです

 


「全てはエムさんの自作自演」
エヌ彦はつづける
「そして」

 

エヌ彦たちは
居酒屋で怖い話を順番にしていた

 

エヌ彦は居酒屋の入り口付近を
指差して
「あそこにいるのが、僕につきまとっている
エムさんだ」

 

入り口に近くのテーブル席に座る
白いワンピースの女は
少しだけ笑みを浮かべ
ビールジョッキをあおった

 

 

 

重要なビデオ映像

最近はね

暗い部屋でひとりでいてね

テレビはつけたまま

ひざをかかえてね

なにかはじめ妖刀ね

 

怖い話のテキストを

読んだり

その朗読の動画を見たり

しているんですよね

 

怖い話に

限らないんだけど

やっぱり

これあきらかに創作じゃん

っていうの

あるんですよね

 

最後のところで

その語り手が死んじゃう

とかね

 

じゃあ

誰が書いているのよ

っていうね

 

それでね

いろいろ考えたんだけど

この創作というのも

実体験をもとにした創作

だったとしたら

って

考えが浮かんだ

 

ようするに

そのまま事実をつづったら

ただの事件なんだけど

それをさ

エンタメ化するわけよね

事実をベースにしながら

ちゃんとフィクションになってるやつ

 

それを

考えはじめたら

なんだか

よけいに怖くなってきちゃってねえ

 

それでね

ぼくが

妻を殺した時の話をね

したいと思う

 

 

 

 

この後

詳細な犯行の様子を

この男がしゃべる

と思われたが

そこで話はとぎれ

映像内で男は

カメラにほうにむかって

倒れる

 

そして

横倒しになったカメラには

もがき苦しんでいる男の様子を

画面端のほうでとらえている

 

薄暗い部屋の中

そのままカメラは

映像を撮り続けているが

時々

おかしな光が映り込む瞬間が

いくつかあったという

 

この映像は

いまも保管されているという

 

 

規制

明け方の部屋の中

俺は眠れないでいた

あいつの事が

あたまから、はなれない

 

テーブルに置いた

端末を手に取り

SNSのアプリをひらく

 

言ってやらなければ

ならない

手がふるえる

 

その時

うす暗かった部屋が

外から照らされた

「なんだ?」

 

ドアが蹴破られて

武装したやつが

こちらに銃を向ける

「端末を置いて、かべに

手をつけろ」

俺はしたがった

 

「お前は、いま

SNSに書き込もうとしたな?」

「はい」

「それは

同僚に対するものだな」

「なぜ、それを」

「それを書くと

重大な損失が出るという予測が

出ている」

最近では

強力な規制が出ているとは

聞いていたが

ここまできているとは…

 

2XXX年

かんたんには

ネットに書き込めない

そんな時代

 

俺は

まだ未遂だったので

罰金と奉仕活動で済んだ

実際に書き込んでいたら…

考えるのも

恐ろしい

 

 

 

僕は

時々こういう文章を

書いては

ブログに書いている

「さて、寝るかな」

 

その時

うす暗い部屋は

外から照らされた

 

ドアを蹴破り

だれか入ってくる

「いますぐ

ブログの内容を消せ

さもないと…」