きようなできごと

記憶力が足りない

タピオカのブルース

「俺、なんていうか怖いんだ」

キョウコが席に座ると

すぐに、マサルは話しだした

 

なにしろ

タピオカが怖いという

 

 

 

「なんか、イモをなんかするとできるらしいよ」

どこかで聞いた話を

キョウコは思い出した

 

「それ本当か?きっとなんか他の星から

来ているんじゃないかな」

出た

マサルのふしぎな事は宇宙論

もうどれだけの事を

疑えば気が済むのか

 

「実は、さっきこういう事があったんだ」

マサルの話はこうだ

家の近くの公園を歩いていたら

そこに

ドリンクスタンドが

あたらしくできており

当然

タピオカミルクティーを売っていた

 

マサル

いまいましいものを見る目で

ドリンクスタンドを眺めながら

公園を出ようと出口にむかう

 

ふいに

芝生のあいだに

なにかあるのを見つけた

 

タピオカだった

公園の芝生に

時々あるわかめみたいなやつ

あれと同じ感じで

そこにタピオカはあった

 

たまたま、あそこで

こぼしたやつがいた

そう考えて

急いで、マサルは公園を出た

 

そうは思っても

なにか気になる

ふと、歩道を見るとタピオカ

店の窓枠のすみにタピオカ

前を歩くひとのポケットから

こぼれおちるタピオカ

 

いやいやいやいや

いったいなんなんだよタピオカよ

 

なんだか

気分が悪くなってきたマサル

駅前の雑踏のなか、立ち止まる

その時見たのだ

 

白昼堂々

ゲロをはくおじさん

おいおい、昼間から酔っぱらいかよ

だが

マサルは目を離せなかった

 

おじさんは

タピオカをはきだしていた

タピオカミルクティー

もどしているのではない

純粋に

タピオカだけを

大量に道の側溝にはいていた

 

マサルは、道に座り込む

おじさんは

耳や鼻からも

タピオカをはきつづけていた

 

そして

キョウコを呼び出し

いまにいたる

 

だから

いずれ街がタピオカに

 

 

というのが

マサルのタピオカによる

人類の絶滅への道だそうだ

 

そこまで

きいて当然あきれたキョウコだったが

実は

なんだかわからない物質で

できていたものが

大量に発生して

地球をおおいつくす

なんてのは

確かに、怖いなあ

なんて

 

 

マサル

うつむいたまま、なにも話さない

「ねえ、どうしたの?」

キョウコは、肩に手をかけると

マサルはそのまま後ろに倒れ込んだ

「いやっ」

その顔は

鼻の穴、耳の穴、目、口が

タピオカで満たされている

そして

あとからあとから

たえず、あふれかえるのだった

 

 

 

「なにこれ」

飲みかけのタピオカミルクティー

最後のひとくち分飲んだ

 

スマートフォンから

目をはなし

立ち上がろうとすると

なにか踏んで少しすべる

 

タピオカをふんだのだ

 

顔を上げて外を眺めると

もう

ひざしたのあたりまで

街がタピオカに

うめつくされていた