きようなできごと

記憶力が足りない

潮のかおりは借金に似た

部屋に帰った時
少しだけいつもより
薄暗い気がしたが
まあ、そんな日もあるか
と思いながら
あかりのスイッチに
手をのばすと
その手首をなにものかに
つかまれ
そのまま、床に顔を
押し付けられるかたちで
押さえつけられた
そしてくちのあたりに
布を当てられて
気を失った

 

目を覚ますと
アイマスクをされて
手を後出に拘束されていた
ヘッドフォンからは
爆音でロックがなっていた
どうやら
両隣に誰かいて
車にのせられているようだった
声を出そうにも
縄をかまされていて出せない
体を動かすと
なにかとがったものを
腹のあたりに当てられ
こちらが動きを止めると
とがったものはひっこんだ
かなり飛ばしてるようで
どこにむかっているかは
わからなかった

 

車が止まると
ドアが開く衝撃
ヘッドフォンの片方をはずされ
「出ろ」とだけ言われる
聞いたおぼえはない声だった
自分ではうまく動けず
となりのやつが
こちらをかかえるようにして
車の外に出された
風が冷たかった
そして、潮のにおい
海だ海が近い
やっぱりそうか
俺は海に沈められるのだ

 

借金は
もう200万までふくれていた
よく厳しい取り立てが来る
なんて聞いていたが
一向にあらわれない
たかをくくっていた
でも、いきなり
こんなことってあるのか?
でも、実際いま起きている

 

俺は強引に引っ張られ
なにかに乗せられた
雰囲気から船だとわかった
やはり、このまま沖に出るのだ
暴れてやりたかったが
より強くわきをかためられ
うまく動けない
あまりに手慣れている
経験をつんだ組織なのか

 

俺はどうやら
船の甲板にしばりつけられる形で
船は動き出した
時々、海水が顔にかかる
やはり、船も飛ばしている
ああ、このまま沈められるのか
考えろ、考えろ、考えろ

 

無理だ
もう、どうしようもない
あまりのことにぼんやりしてきた
楽しかったことでも考えようか
この船が
波のタイミングで
時々、つきあげるようにはねる
それが思考をさまたげる
なんとうまくできているのか
ずっと、ガタガタしてはいないのだが
変なタイミングで船がはねる
もう本当にだめだ

 


それにしても
どこまで行くのか
時々、はねるリズムで
かなりの速さで海面をすべるように進む
いくらなんでも遠くに来ている
そこでようやく気がついた
船の甲板に
しばりつけられていたのだが
絶妙な揺れにより
体が自由になり
俺は甲板で立ち上がった
そして、アイマスクを取る
そこは、ちいさなプレハブだった

 

俺は
なんというか
ゲームセンターにありそうな
車のゲームとかの
ハンドル操作で筐体が揺れるあれ
あれの試作段階みたいな装置に
腰のあたりをしばりつけられていた
これが
ゆれて「船に乗っている」感じを
演出していたのだ、演出?
そして、なにか液体の入ったスプレー容器は
ひもがつけられていて
時々、プレハブ小屋のなかを
霧吹いていた
ボトルのなかを確認すると
どうも海水そのもののようだった
なんだこれ

 

というか
俺は
自分の部屋からさらわれて
ここに運ばれて
船に乗ったことになって
そのまま放置されたのだった
いやでも待てよ
このプレハブはどこにあるのか
まさか、ここが
とんでもない土地に
ドアはかんたんに開き
そこは、巨大な空き地にある
プレハブだった

 

そこは
地元の海の近く
大きな工場があった跡地の空き地
そこに建てられたプレハブだった
時間は、夕方
俺は混乱したまま自宅へ帰った


この出来事以来
特に変わったことはない
借金も普通に督促がきて
怖かったので普通に払った
結局あれはなんだったのか
いまだわからない
関係があるかはわからないが
借金のため応募したアルバイトが
あったのだが
そのお知らせがまったくこない
まさか、あの謎の装置と
関係があるのか
ないかも、わからなかった


俺は海のにおいが苦手になった