きようなできごと

記憶力が足りない

触手をトントントン

家で晩ごはんをつくろうか

と思っていた時

電話がかかってきた

 

「いま、大丈夫?」

妻からだ

なにかあったのか

 

「なんか、スマートフォンのプラグのとこから

触手が出てきて」

「ははあ」

「なんか気持ち悪いんだけど、対処法わかる?」

「いまどこ?まだオフィス?」

「もう帰るところ、電車乗るとこ」

「それじゃあ、モバイルバッテリーをつないで」

「いや、でも、挿すところから出てて」

「トントントン、トントントン」

「えっ?」

「トントントントントントントンの」

 

「三三七拍子のリズムで出たり入ったり

してるはずだから、引っ込んだ時に」

「挿すのね?」

 

「挿せた」

「そしたら、画面を下から上にスワイプして」

「した」

「触手アイコンを押して」

 

「ありがとう、一時はどうなるかと思った

すぐに帰るから」

「あの、ああ」

電話は切れた

 

電話を握りしめた僕の左手は

やっぱり熊の手のままだった

「これも対処法、相談すればよかった」

 

もう動けないけれど空は飛びたい

かつて憧れていた人が亡くなった

 

だが

かけつけることはできない

 

それを知ったのは

インディーズのバンドの情報を

ツイッターでながめていたら

それについて

その人がコメントしているのを

偶然にも発見したからだ

 

だから

フォローもしてない

でもだいたい毎日みてる

 

いっそ

これを期に

そのアカウントにコンタクトとってみるか

 

いやいやいや

 

本来の筋である

かつて一緒に勤めていた会社

そこの社員からの連絡を待つか

 

まあ

自分が辞めてから

まったく連絡はないが

それでも待つ

 

不謹慎でも

亡くなったのは冗談で

また

あたらしいツイートが

されるんじゃないか

という

くだらない想像をしながら

ただ待つ

 

 

 

まだ輪に入れてもいなかった

同じ趣味の仲間ができた

それも自分よりも若い人たち

 

それを

同年代の知人に話すと

「おじさんに暴れられるとこまるから

気を使われてるだけじゃないの」

と言われた

 

そういうツイッターの投稿もあったな

確かに

雑にあつかわれているとも

思えていたので

知人の話をそのまま

趣味の人たちにも話してみた

 

すると

場は静まりかえり

まさにお通夜のごとく

ああ、やっぱりそうだったのか

わかっていたような

わかりたくなかったような

 

一番親しいと思っていたYは

「ごめん」

と、目を合わさずにそう言った

 

気がついた時には

自宅近くの駅にいた

 

母親は

思ったよりも早かったね

ということを言った

そうだった

食事でもして、本来ならカラオケなどに

行っている予定だった

 

それも

自分がそう考えていただけなのかも

しれなかった

 

よくわからないけど

ご飯をおかわりして食べた

 

 

こどもの声

土曜の昼間

近所のこども達の声がする

ときどき

笑い声と盛り上がりが

頂点に達した時

爆発的な音がする

まあまあ、うるさい

 

でもまあ

どうしようもないし

仕方ない

 

次の週の土曜

やっぱりその日も

こども達の声が爆発的だった

だが

その日は違った

 

一度目の大歓声

その直後

その歓声を上回る大きな

謎の爆音がしたのだ

 

あとから

考えればそれは

その「こどもの声を録音したものを流している」

ようだったのだ

 

そのタイミングも

その音がするあとに

かぶせるように

数倍の大きさのその音が出ていた

やまびこなんてものじゃない速さで

 

なんというか

その爆音がした後

あたりはシーンとしました

 

その後

再び、こども達の声がすると

やっぱり

かぶさってあの爆音がするのです

 

あたりで

大声を出すこどもはいなくなりましたが

あれが

誰がやっていたのかは不明のままです

 

 

 

これに近い話を

もうひとつ

 

ある男性の家のそばには

保育所がありました

会社に勤めていた時は

さほど気にならなかったのですが

平日の休みの日などは

こども達の声が気になるようになったそうです

 

その後

この男性

会社をやめてフリーターをしていたのですが

持病の悪化からか

亡くなってしまったそうです

 

その部屋からは

大量のデータDVDが発見されて

その中身は

デジタル一眼レフで撮影された

その保育所だったそうです

 

あわせて見つかったメモ書きによると

はじめは

文句を言う時の証拠として

録画していたが

確認をしていると

「もっといい音、画質で」

と思うようになり

いつしか

より高音質、高画質の映像を撮るのが

自分の使命だ

と感じるようになったようだ

 

はじめは

迷惑と思っていたはずなのに

どこから道をはずれたのか

 

友人から聞いた話です

 

 

マグカップ

マグカップを買ってもいい時期だと思った

 

ついに、時は来たのだ

 

やはり、ここは

あのあこがれの、あれを

買う時が来たのだ

そう、思った

 

ただ、高い

マグカップの適正な価格とは

どのくらいなのだろうか

 

だから

お気に入りの

ライトグリーンコーヒーの

マグカップ

た、高い

 

なんなんだ、マグカップの野郎

 

この後

どこを探しても

買うべきマグカップは見つからなかった

 

そうだ

そこで、原点回帰

検索サイトに、「マグカップ」と入力してみた

灯台もと暗し

なぜ、これをしなかったのか、と

 

すると

ついに

買うべきマグカップに出会った

それが、こちらだ

 

 

 

 

 

 

リンクは切れています

 

 

 

 

「で?」

「で?って」

現場では

現場検証がおこなわれていた

「いやあ、なにか証拠に」

「ならんだろう」

あっさりと先輩は立ち去る

 

いやあ

絶対に、マグカップが関係あると

おもうんだけど

これが

僕と、マグカップ殺人事件との

最初の出会い

 

 

 

だれも助けてはくれない

「あれ、お酒飲んでないの?」

「そうなんですよね、飲めないんで」

「車できてるとか?」

「いえ、体質です」

「そうなんだ」

「やはり、帰ったほうがいいですか?」

「え、いや大丈夫だけど」

「ああ、ですよねよかったー」

「前の職場でなにか言われたりしたの?」

「そうなんです、でもねしめたんで」

「しめる?」

「全員、強制的に飲めとかいってくるやつは」

「ええ」

「帰り道に手足しばって、二度と二度と

酒を飲むのを強要しないっていう念書かかせて」

「ああ、うん」

「ひとりづつ、黙らせてきたんで」

「うん」

「社長は、そんな事言いませんよね?」

「う、うんうん」

「言うのか、言わないのか、はっきり答える」

「言わない」

「はは、だからこの会社に決めたんすよー」

開始2分、夜は長い

 

 

 

愛は永遠

あなたは、いまもあの頃のままね

 

近所の奥様たちは

自分のだんなが老いていくのを

誰もがなげいている

もちろん、自分をたなにあげて

 

でもね

あなたは、あの頃のままね

 

わたしはやっぱり

間違ってなかったと思う

わたしの決断は正しかった

 

でもね

時々は思うの

あなたとわたし

どちらもしわくちゃになっても

きっといい夫婦だったんじゃないか?ってね

でもね

そんなことはなかったのね

あなたは、あの頃のまま

いまも美しいは

 

そう

最後にいった旅行でとった写真

ずっと、そのまま

あなたはあの頃のまま

 

わたしだけがしわくちゃ

あなたに見られたくなかったから

よかったのかもね

 

あなたは

本当にあの頃のまま

 

旅行の最後

夕暮れの崖の上で

わたしがあなたを蹴り飛ばしたあの崖

あなたはあの頃のまま

わたしの心と写真のなかで

いまもあの頃のまま、美しい

 

でもね

わかってるの

いまも、ふたり一緒

 

毎晩

あなたはわたしの部屋の窓をたたく

 

わたしがあの部屋を出ても

あなたはやってくる

でもね

わたしは窓をあけない

カーテンもあけない

 

何度も何度も何度も何度も

ひっこしても

あなたはやってくる

 

わたしはあきらめた

だから

わたしとあなたはいつも一緒

あの頃のままよ

 

窓の外のあなたが

崖の下でぐちゃぐちゃになった

あの頃のまま

 

本当に美しいわ

 

 

潮のかおりは借金に似た

部屋に帰った時
少しだけいつもより
薄暗い気がしたが
まあ、そんな日もあるか
と思いながら
あかりのスイッチに
手をのばすと
その手首をなにものかに
つかまれ
そのまま、床に顔を
押し付けられるかたちで
押さえつけられた
そしてくちのあたりに
布を当てられて
気を失った

 

目を覚ますと
アイマスクをされて
手を後出に拘束されていた
ヘッドフォンからは
爆音でロックがなっていた
どうやら
両隣に誰かいて
車にのせられているようだった
声を出そうにも
縄をかまされていて出せない
体を動かすと
なにかとがったものを
腹のあたりに当てられ
こちらが動きを止めると
とがったものはひっこんだ
かなり飛ばしてるようで
どこにむかっているかは
わからなかった

 

車が止まると
ドアが開く衝撃
ヘッドフォンの片方をはずされ
「出ろ」とだけ言われる
聞いたおぼえはない声だった
自分ではうまく動けず
となりのやつが
こちらをかかえるようにして
車の外に出された
風が冷たかった
そして、潮のにおい
海だ海が近い
やっぱりそうか
俺は海に沈められるのだ

 

借金は
もう200万までふくれていた
よく厳しい取り立てが来る
なんて聞いていたが
一向にあらわれない
たかをくくっていた
でも、いきなり
こんなことってあるのか?
でも、実際いま起きている

 

俺は強引に引っ張られ
なにかに乗せられた
雰囲気から船だとわかった
やはり、このまま沖に出るのだ
暴れてやりたかったが
より強くわきをかためられ
うまく動けない
あまりに手慣れている
経験をつんだ組織なのか

 

俺はどうやら
船の甲板にしばりつけられる形で
船は動き出した
時々、海水が顔にかかる
やはり、船も飛ばしている
ああ、このまま沈められるのか
考えろ、考えろ、考えろ

 

無理だ
もう、どうしようもない
あまりのことにぼんやりしてきた
楽しかったことでも考えようか
この船が
波のタイミングで
時々、つきあげるようにはねる
それが思考をさまたげる
なんとうまくできているのか
ずっと、ガタガタしてはいないのだが
変なタイミングで船がはねる
もう本当にだめだ

 


それにしても
どこまで行くのか
時々、はねるリズムで
かなりの速さで海面をすべるように進む
いくらなんでも遠くに来ている
そこでようやく気がついた
船の甲板に
しばりつけられていたのだが
絶妙な揺れにより
体が自由になり
俺は甲板で立ち上がった
そして、アイマスクを取る
そこは、ちいさなプレハブだった

 

俺は
なんというか
ゲームセンターにありそうな
車のゲームとかの
ハンドル操作で筐体が揺れるあれ
あれの試作段階みたいな装置に
腰のあたりをしばりつけられていた
これが
ゆれて「船に乗っている」感じを
演出していたのだ、演出?
そして、なにか液体の入ったスプレー容器は
ひもがつけられていて
時々、プレハブ小屋のなかを
霧吹いていた
ボトルのなかを確認すると
どうも海水そのもののようだった
なんだこれ

 

というか
俺は
自分の部屋からさらわれて
ここに運ばれて
船に乗ったことになって
そのまま放置されたのだった
いやでも待てよ
このプレハブはどこにあるのか
まさか、ここが
とんでもない土地に
ドアはかんたんに開き
そこは、巨大な空き地にある
プレハブだった

 

そこは
地元の海の近く
大きな工場があった跡地の空き地
そこに建てられたプレハブだった
時間は、夕方
俺は混乱したまま自宅へ帰った


この出来事以来
特に変わったことはない
借金も普通に督促がきて
怖かったので普通に払った
結局あれはなんだったのか
いまだわからない
関係があるかはわからないが
借金のため応募したアルバイトが
あったのだが
そのお知らせがまったくこない
まさか、あの謎の装置と
関係があるのか
ないかも、わからなかった


俺は海のにおいが苦手になった

 

 

競馬場はなかった

「はい、今年は2020年ですよ」

「ケイバジョウ?それはなんですか?」

「馬が?競争する?それをここでやってる?」

「いやあ、そんなの聞いたことないです」

「ええ、2020年ですよ」

「ギャンブル?それなんですか?」

「ええ?そんなことしていいんですかね?」

「だから、2020年!」

「いやあ、そんなもの存在しませんよ、ええ」

 

 

 

「もしもし、私です」

「ええ、A地点で話しました」

「ちゃんと、競馬場などない話しました」

「ところで」

「あの人、ふしぎな車に乗って、ええ」

「ふしぎなかっこうをしていて」

「あの人、いったいなんなんですか?」

「あ、いえ、私はアルバイト料が出ればいいんで」

「それじゃ、失礼します」

 

 

 

「あ、今年は2020年ですよ」