きようなできごと

記憶力が足りない

触手をトントントン

家で晩ごはんをつくろうか

と思っていた時

電話がかかってきた

 

「いま、大丈夫?」

妻からだ

なにかあったのか

 

「なんか、スマートフォンのプラグのとこから

触手が出てきて」

「ははあ」

「なんか気持ち悪いんだけど、対処法わかる?」

「いまどこ?まだオフィス?」

「もう帰るところ、電車乗るとこ」

「それじゃあ、モバイルバッテリーをつないで」

「いや、でも、挿すところから出てて」

「トントントン、トントントン」

「えっ?」

「トントントントントントントンの」

 

「三三七拍子のリズムで出たり入ったり

してるはずだから、引っ込んだ時に」

「挿すのね?」

 

「挿せた」

「そしたら、画面を下から上にスワイプして」

「した」

「触手アイコンを押して」

 

「ありがとう、一時はどうなるかと思った

すぐに帰るから」

「あの、ああ」

電話は切れた

 

電話を握りしめた僕の左手は

やっぱり熊の手のままだった

「これも対処法、相談すればよかった」