きようなできごと

記憶力が足りない

特殊な入り口

あの、最近
特に、涙もろくなったなって話で
テレビで、あるじゃないですか
こどもが、おつかいにいく様子を撮った
あれとか、ほんとだめで
番組の予告とかで
先を想像して、もう泣いちゃってるんですよね

あれ見てると
こどもの姿を収めようと
カメラを持った人が、何人も
そこらを、歩いているんですよね
なんだったら、手に持って
こどもの目線に、かがんでたりして
でも、こどもは気がつかないものなんですね

でもね
こういう事って、今もあるかもしれないなって
だから、僕もカメラで監視されてるんじゃないかって
でも、見つからないんですよね、カメラ
最近は、サイズがちいさいのかも知れないし
というか
街を歩いている人とかも
僕を監視するために、目がカメラになっているロボット
なんじゃないかって
そう、思って
なんか、会社に行くまでずっと後ろをついてきた奴を
殴り倒しちゃって
今、ここにいる
ってわけなんですけど

映像はここで、途切れた
医者は、ゆっくりと言った
「お兄さんは、誰かに監視されている
と、思っていたようで」
「はい、数日前にテレビを見ていた時に言い始めて
昨日の朝、通勤中に」

兄は、真面目でおとなしい性格だった
仕事でストレスでもあるのかと思ったが
同僚の方の話だと、そんな様子もないらしい

「しばらく、様子を見て、すぐに退院できると思いますよ」
「ありがとうございます、ところで兄には会えますか?」
「お兄さんは、誰かに監視されている
と、思っていたようで」
「はい、数日前にテレビを見ていた時に言い始めて
昨日の朝、通勤中に」

兄は、真面目でおとなしい性格だった
仕事でストレスでもあるのかと思ったが
同僚の方の話だと、その様子もなかった

「しばらく、様子」
「あー、おかしいなあ」
部屋のすみに置いてあったロッカーから
ブリーフ一丁の中年の男が出てきて、そう言った

  

同じことばを、繰り返すふたりの
首筋から、手を伸ばし
背中にあるパネルをいじった
 
そして、天井に向かって
「再起動かけましたから、90秒後に
映像明けの所からでーす」
と叫び、中年の男は
再び、部屋のすみのロッカーに戻っていった